土曜日

緑の路

宮崎空港・宮崎 大分・別府

自然の神秘に満ち、神話が息づく恵み豊かな緑に抱かれる

本ページの内容は『Discover Japan』2020年10月号でもご覧いただけます。

八百万の神々が座す神話のふるさと、宮崎。天照大神の孫・ににぎのことが降り立った高千穂をはじめ、瓊瓊杵尊の御陵とされている古墳がある「西都原さいとばる古墳群」や、瓊瓊杵尊の息子・彦火火出見命ひこほほでみのみことを祀る「青島神社」など神話ゆかりのスポットが散在している。色濃い緑の中で耳を澄ませば、1300年前に編纂された『古事記』、『日本書紀』に記された、神々の息遣いが聞こえるよう。この地を訪れたのは、ここにしかない「緑」を知るためだ。

 眩しい太陽の光が降り注ぐ、日南海岸沿いに浮かぶ青島は、700万年前に隆起した海床に貝殻が蓄積することで形成、別名を「真砂島」という。海上の参道である弥生橋を渡ると、亜熱帯植物が群生する島に「青島神社」が現れる。浦島太郎伝説のモデルといわれる神話「海幸彦・山幸彦」の山幸彦(彦火火出見命)が、海から戻って住んだ場所に創建された神社だ。周囲1.5㎞の島は、青島神社の神域で、赤い花を咲かせるヒギリや高さ2m以上になるダンチクなど197種の自生植物、27種の熱帯及び亜熱帯性植物が繁茂する。

「島にこれだけの亜熱帯植物があるのはふたつの説があります。南方から黒潮にのって大量のビロウの種子が流れ着いたという説。もうひとつは、かつてこの辺り一帯が南方系の植物が多い土地だったが、青島は聖域とされ江戸時代まで入島が禁止されていたので、島内にだけ手つかずの亜熱帯植物が残ったという説です」と権禰宜ごんねぎ・川﨑明さんは話す。青島の植物はすべて「青島亜熱帯性植物群落」として国の特別天然記念物に指定。花が咲き、実がなり、葉を落とし、倒木してもすべて自然のままに保たれ、やがて土に還り、次の命へとつないでいく。境内では、生命のありのままの姿を間近に見ることができるのだ。また、青島の亜熱帯植物を象徴する霊木のビロウは、境内に約5000本あり、最高樹齢は350年を数える。年を経るごとに幹が引き締まって細くなる珍しい性質をもつため、台風でも幹がしなり、折れずに境内を守っている。

Episode15 幸せな緑

奇岩・鬼の洗濯板に囲まれた青島に立つ「青島神社」。創建は1200年以上前といわれ、亜熱帯植物群の緑に鳥居や神殿の朱色が映える。ご祭神に山幸彦(彦火火出見命)と妻の豊玉姫、そして二人を結び付けた塩筒大神しおつちのおおかみの三神を祀り、縁結びのご利益で有名。

青島神社
住所:宮崎県宮崎市青島2-13-1
Tel:0985-65-1262

Episode16 緑の神話

「西都原古墳群」には3世紀末~7世紀頃につくられた300基を超える古墳が大草原に点在。天照大神の命で、豊かな土地を求めて西都原に進出した瓊ににぎのみこと瓊杵命の御陵とされている国内最大級の帆立貝型古墳・男狭穂塚など、神話とゆかりのある古墳も多い。

西都原古墳群
取材協力:西都原考古博物館
住所:宮崎県西都市大字三宅5670
Tel:0983-41-0041

Episode17 緑の先人

由布岳のふもとに田園風景が広がる緑豊かな由布院。約50年前、ゴルフ場開発計画に立ち向かうべく「由布院の自然を守る会」を立ち上げ、以降も数々の開発計画から自然を守ってきた。緑を生かし、ドイツを手本にした保養温泉地は、人々を惹きつけてやまない。

 大分県・由布院では「由布市まちづくり観光局」の事務局次長・生野敬嗣さんに話を聞いた。「由布院のまちづくりは、観光のまちをつくることでなく、温泉、芸術文化、自然景観といった生活環境を整え、住民の暮らしがより充実し落ち着いた保養温泉地になることを目指してきました」。バブル好景気による開発に沸く中、まちのシンボルでもある由布岳との調和を大切にした由布院らしいまち並みを守るため建築・環境デザインガイドブックを作成。地域全体の指針とし、どこか懐かしさを感じる景観を保ち続けている。町を走る辻馬車や音楽祭、映画祭など文化的なイベントが世間からの注目を集め、多くの交流を育む、由布院の大きな吸引力となっている。

清流・小川こがわでは「五ヶ瀬自然学校」の理事長・杉田英治さんが、「カナダやネパールなど世界の山に登り、秘境にも訪れましたが、自然の循環が調和した、こんなに美しい川はどこにもありません」と教えてくれた。
悠久の時が流れる中、いくつもの奇跡が積み重なって生み出された、豊かな自然に触れる、緑の路。神秘に満ちたおおらかな自然は、旅人をありのままの姿でいいと優しく受け入れ、浄化し、大きな癒しを与えてくれる。

由布院のまちづくり
取材協力:由布市まちづくり観光局
住所:大分県由布市湯布院町川北8-5
Tel:0977-85-8611

Episode18 きらめく緑

宮崎県延岡市に流れる北川の支流「小川」は、国道沿いにある“奇跡の清流”。カヤックに乗ると、まるで宙に浮かんでいるような気分を味わえる。川の水は、照葉樹8割、広葉樹2割の森が生み出した湧き水が集まったもので、川面は生い茂る木々を映して緑色に輝く。

小川
取材協力:五ヶ瀬自然学校
住所:宮崎県西臼杵郡五ヶ瀬町大字鞍岡2840
Tel:0982-73-6366

Episode19 緑はあったまる

1276年、一遍上人により創設された「鉄輪むし湯」は温泉の元祖。温泉の蒸気が充満する石室に、薬草・石せき菖しょうが敷き詰められており、浴衣を着て横たわるユニークなスタイルだ。床から蒸気が立ち上り、全身を温め血行を促進。滝のように流れ出す汗を感じよう。

鉄輪むし湯
住所:大分県別府市鉄輪上1組
Tel:0977-67-3880

Episode20 緑は旨い

宮崎県日向市を原産地とする柑橘類「へべす」は、料理の味を引き上げる天然の調味料。無農薬栽培にこだわり、有機JAS認定を受ける「成合へべす園」では、野性味あふれるパンチの効いた香りと弾けるような酸味のへべすをつくり、全国から注文が殺到している。

成合へべす園
住所:宮崎県日向市大字塩見14567-64
Tel:090-1971-1516

Episode21 意外な緑

1971年に誕生した日本初の乳性炭酸飲料「スコール」。発売当時の緑を基調とした瓶のデザインをいまも継承。緑が爽やかな甘酸っぱさとマッチ。ロゴの下地は企業のシンボル・南十字星と四つ葉のクローバーがモチーフ。

スコール
取材協力:南日本酪農協同
住所:宮崎県都城市姫城町32-3
Tel:0120-043-694

Green Column

「照葉樹林」を守った町

一年中、緑の葉をつけるシイやカシの照葉樹林が町の8割を占める綾町。その規模は日本最大級を誇り、ユネスコエコパークにも登録されている。昭和40年代、国による自然林の伐採が計画されるが、当時の町長・郷田實さんはこれに反対。娘の美紀子さんは「父を動かしたのは郷土愛でした」と話す。「戦時中、中国の照葉樹林で、その恩恵を受けて餅や醤油をつくる日本と共通の文化があることに驚いたと言います。かつて日本に広く分布していた照葉樹林を守ることは文化の源流を守ることでもありました」。實さんは、町民の自治の心を“結いの心”と呼んで対話を重ね、小さな町の反対運動は大きく広がり国を動かすことに。この運動は未来を見据えた町づくりにつながり、全国に先駆けた有機栽培など自然との共存を実現。綾町はいまこそ求められる「豊かな暮らし」を教えてくれる。

取材協力:薬膳茶房 オーガニックごうだ
住所:宮崎県東諸県郡綾町大字南俣303-4
Tel:0985-77-0045

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